私が子供の顷は,授业参観系列というと后ろに亲ずらっと并んでいつもにもして紧张

【沙杀学习笔记】-世界の終わりに
& 明日、この世界は終わります。 そんなとき、あなたならどうしますか。 これは、世界最後の時間を生きた人たちの記憶を辿る物語??? & & & たとえこの世界が終わろうとも、僕らの心は生き続ける。 && ▽ &  テレビから流れる雑音に、聡は目を覚ました。  どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。テレビの画面を眺めると、そこには無秩序にうごめく砂嵐が映し出されていた。テレビの上に置かれた時計の針は、夜中の四時を指していた。  家に帰ってきたのは一時過ぎだったから、いつの間にかに三時間近く寝てしまっていたらしい。聡はソファに座り直し、冴えた目でテレビに映る灰色の画面をじっと見つめていた。そして、今日???もう日付としては昨日の出来事だが、沙由理の担当医師の言った言葉を思い出していた。 「申し訳ありませんが???明日亡くなってもおかしくない状態です」  そのとき、医師の言葉に聡は「そうですか」と呟くことしかできなかった。  聡はふと顔を上げ、狭い六畳一間の部屋を見渡した。殺風景なほど整頓された部屋には、これといって目につくものはない。そこにあるのは無機質な空間だった。苦労も感動もぬくもりも、この部屋には残されていない。  それも当然だった。思えば、聡と沙由理がこの部屋で過ごした時間はほんの僅かだった。この部屋には思い出すものなど何も残されていなかった。ささやかな二人の憩いの場は、結局その役目も果たさぬまま終わってしまうことになってしまった。  この部屋ももう引き払ってしまおう、聡はそう思った。諦めたわけではなかったが、最後まで沙由理の側にいたかった。沙由理のいないこの部屋は、聡にとって何の意味もなさないものに思えたのだ。  突然、目の前のテレビが明るくなり、聞き慣れた声が聞こえ始めた。見ると、よく見るニュースキャスターが映し出され、何かを話していた。  こんな早い時間からテレビが始まるのかの思いながら、何気なくその画面を見つめていた。 「先ほどアメリカ大統領の会見が開かれ???」  テレビにアメリカテレビ局のニュース番組の一場面が流れた。そして、お世辞にもハンサムとは言えない男のアップが映し出され、いつもと同じ訥々とした口調で文面を読み始める。何を言っているのかは理解できなかったが、すぐに画面に日本語訳が流れ始める。  小難しい専門用語が混ざった説明で、映し出された日本語訳を読んでも、聡にはよく分からなかった。もっとも、今の聡にはどうでもいいことに思えた。重要なのは、沙由理のことだけだ。そう思いながら、上の空でそのテロップを眺めていた。  画面に映る男の言葉が途切れ、顔を上げた。そして、ゆっくりと最後の言葉を発した。少し間をおいて、その言葉の訳が映し出される。
 ――明日、世界は終わります。  そのテロップは、無言のままずいぶん長い間映し出されていた。 & && ▽ & 「聡、今日はなんだか騒がしいのね」  沙由理はベッドに寝て天井を見つめたままの格好で、聡にそう尋ねた。 「あ、ああ。今日は退院する人が多いみたいだから。その所為じゃないかな」  病室脇の窓から外を眺めていた聡は、振り返って沙由理の言葉にそう答えた。再び窓の外を見ると、確かに慌ただしく退院していく患者達の姿が目に付く。  今朝の臨時ニュースのことは、沙由理にはまだ話していなかった。話す必要もないと、聡は思っていた。幸い、沙由理の部屋にはテレビがない。入院した当初、本人が必要ないと言ったので部屋から運び出してもらったのだ。  沙由理はテレビを見ることはできない。目が見えないのだから当然だ。それに、もし見えたとしても、顔を動かすこともできないのだから、テレビがあっても役に立たないだろう。沙由理はその代わりにラジオを欲しがったが、ラジオの電波が沙由理の使っている医療機器に影響する可能性があるという理由で、ラジオさえも沙由理には許されていなかった。  聡は病院から去っていく患者達を見ながら、昨夜の臨時ニュースのことを思い出していた。あれから、テレビや新聞では大騒ぎになっていた。朝日が登る時間には、すでに特番らしき番組が報道され始め、とんでもないことが起ころうとしていることは嫌でも理解できた。  テレビ番組の解説では、太陽の異常活動により放射線量が増大するとか言っていた。よく分からないが、ちょっとした太陽の異常活動が、太陽系に多大な影響を及ぼすらしい。そして、地球にはチェルノブイリの何千倍という放射線が降り注ぐこととなり、瞬く間に世界中は最後の日を迎えることになる。誠しやかな肩書きを持った解説者が、息を荒げてそう解説していた。  ――明日、世界は終わります。  突然そんなことを言われても、信じる人間がどれくらいいるだろうか。実感が湧かないというのが、聡の本音だった。いつもと同じ朝、いつもと同じ景色が広がるこの世界が、明日終わる、と言われても、現実味がまったくないのだ。違うのは、慌てふためき病院を去っていく患者達の姿だけだ。聡には、そんな人間達だけが、酷く滑稽に見えていた。  ――明日亡くなってもおかしくない状態です。  昨日、医師が言った言葉を聡は再び思い出していた。聡にとって、この言葉は「明日、世界が終わります」という言葉と同義だった。そこに、どれほどの違いがあるというのか。自分がこれほど冷静にいられるのも、その所為かもしれないと聡は思った。 「いいなぁ???私も早く退院したいな???」  沙由理が遠慮がちにそう呟いた。それが無理なことを本人が一番分かっているからだろう。聡は振り向いて、そう呟く沙由理の顔をじっと見つめた。  今彼女の命を繋ぎ止めているのは、彼女の気力でもなく、聡の思いでもなく、彼女に繋がれたいくつもの機械だった。これらが一つでも壊れてしまえば、彼女の命はもろく消え去ってしまうのだろう。それこそ、明日死んでしまうことにもなりかねない。 「家に帰りたいかい?」  聡は沙由理にそう尋ねてみた。沙由理の表情が少し変わるのが分かった。普段は絶対に言いもしないことを、突然聡が尋ねてきたので驚いたのだろう。 「家に帰りたい???かな。想い出も何もないけど、やっぱり二人の家ですもの。私の帰る場所は、あの部屋なんだから」  そう語る沙由理の表情は変わらない。それが精一杯の彼女の主張なのだろうと、聡は思った。しかし、聡を苦しめないようにと気遣う彼女のその姿が、余計聡にとっては痛々しく見えてしまう。 「何処にいたって、僕は側にいるよ。これからずっと、君の側を離れない。約束するよ」  聡にはそう答えるのが精一杯だった。 & & && ▽ &  聡が初めて沙由理と出会ったのは、大学に通う電車の中だった。その頃の二人は、まだ出会ったというには程遠い関係だった。お互いの名前も知らずに、毎朝、電車で顔を見合わせるだけの日々が1年ほど続いた。  電車の中で30分だけの時間だったが、お互いに意識し合っている雰囲気は聡も少なからず感じていた。しかし、だからといって名前も知らない人に声をかける勇気は聡にはなかった。そうして、今思えば二人にとって掛け替えのない貴重な時間は、あっという間に過ぎていった。  1年が過ぎようという頃、沙由理は聡の朝の通学の景色から、突然姿を消した。そして、二度と同じ時間を共有することはなかった。  聡は退屈な日々を経て大学を卒業したあと、そのまま大学院へと進んだ。特に将来に夢や野心があるわけではなかった。特別な向上心や使命感があったという訳でもないと思う。ただ流されるように毎日を過ごしていた結果、気がつけば聡は医師の道を進んでいた。  そして、聡は研修医として来たこの病院で、沙由理と再会した。  もし神様があるのだとしたら、神様というのは何と悪戯な存在なのだろうと、聡は思った。僕らはきっと神様のおかげで、運良く再会した。彼女が運悪く不治の病に冒されていたから。  その時既に、彼女の目は病に冒されていた。辛うじて身体を動かすことはまだできていたが、病の症状は既に末期に近い状態だった。  だから彼女はきっと、聡があの時電車で出会った青年と言うことは知らないはずだった。聡も、今までそのことを話したことはなかった。  結局彼女は、聡の最初で最後の担当患者になった。聡は彼女を見守るために、敢えて医者であることを捨てた。本音を言えば、彼女の前で医者でいることに耐えられなくなったという方が正しいかも知れない。どちらにせよ、聡は彼女の担当医であることより、彼女の夫となることを選んだのだ。  聡は心から彼女を愛していた。世界のあらゆるものが虚構であっても、それだけは確信できた。そこに自分たちの未来はなくても、何ら恐れることはないと思っていた。僕らは愛し合っている、その事実だけありさえすれば、二人の心は満たされていると思っていた。 & && & ▽ & 「聡くん、ちょっといいかな」  病室の扉が開き、沙由理の担当医が顔を覗かせて、聡にそう声を掛けてきた。 「はい」  聡はそっと沙由理の肩に触れ、少しだけ席を外すことを告げ廊下へと出た。 「何でしょう?悠木先生」  悠木は聡がこの病院に研修医として赴任したときの直属の上司だった人だった。聡が入った頃はまだ助教授だったが、この数年で類い希な成果を上げ、今ではこの病院の顔とも言うべき教授に昇進していた。 「ここではちょっと???部屋の方まで来てくれるかな」  彼は気まずそうな口調でそう言うと、聡を促すようにして歩き出した。聡も仕方なく、それに習い彼の後について彼の部屋へと向かった。  部屋に付くと、悠木は聡にソファに腰掛けるように勧め、自分も向き合うようにそこに座った。 「今朝のニュースの話、彼女には話したのかな?」  悠木は遠慮がちな口調で、第一声でそう尋ねてきた。 「いいえ、話していません」 「そうか???君はどうするつもりだね?わたし達に残された時間はあと36時間。明日の夜9時には、この世界は終わるんだよ」 「特に考えていません。彼女と一緒にいます」 「この病院に残ると?」 「はい」 「それでいいのかね?患者の多くは???みんな自宅で最後を迎えようと退院していったよ」 「先生は、今の沙由理があの医療機器なしに生きていられると思いますか?」 「それはそうだが???」  そう言って悠木は口を噤んでしまった。  悠木の言いたいことは、何となく分かる気がした。運良くか、彼が担当する患者の中で、病院を離れられないような重病患者は沙由理だけだった。できれば、彼は沙由理にもこの病院を立ち去って欲しいと思っているのだ。担当患者を病院に残したまま立ち去ることが、彼の良心を蔑んでいるのだろう。  彼は医師だ。どんな方法だろうと、医師として彼なりの責務を全うしようという彼の気持ちを責めることは、聡にはできなかった。 「有り難うございます。先生の心遣いには、心から感謝いたします。今まで本当に有り難うございました。でも気になさらず、ご家族のところに帰ってあげてください。もう、先生は充分医師として責務を全うしてくださいました。これからは、僕が守ります。彼女の夫として、わたしが彼女を守ってみせます。だから先生は、あなたのご家族を最後まで守ってあげてください」  聡はそう悠木に告げ、頭を下げた。悠木は何も答えずにずっと俯いていた。 「なあ、聡くん」  彼は徐に顔を上げ言った。 「医師とは、なんだったんだろうな。わたし達は、なぜ患者達を治療してきたんだ?こんな世界の最後を見せるためだったのか?」  聡はそう告げる彼の目を真っ直ぐ見つめながら、世界中で誰もがそう思っているのだろうと聡は思った。今までの人生はいったい何であったのだろう???今まで苦労はいったい何であったのだろう???世界が終わった後に、何が残るというのだろう??? 「少なくても、わたしは???わたしと沙由理は先生に感謝しています。一緒に生きる時間を授けてくれたことを、心から感謝しています」  聡は答えた。  気がついていないのか、悠木は頬をつたる涙を拭おうともせず、聡に「ありがとう」と言って返した。 & & & ▽ & 「先生、何の話だったの?」  病室に戻ると、沙由理はそう尋ねてきた。 「今日は緊急の用事ができたからもう帰るそうだ。家族に何かあったらしくてね」  聡は沙由理の問いにそう答えた。 「そうなの???悠木先生、確か奥さんと二人暮らしだったわね。大したことじゃなければよいけど???」 「大したことじゃないさ。そう、それ程慌てふためく事じゃないんだよ、実際」  心配そうな顔でそう呟く沙由理に、聡はそう言った。沙由理は、「それならいいけど???」と呟くと、何かを考えているのかしばらく無言のままベッドに横たわっていた。 「なんか、突然静かになっちゃったわね。廊下を歩く人の足音も聞こえないの。まだお昼前なのに???」  しばらく無言の状態が続くと、沙由理が突然そう尋ねてきた。確かに、朝に比べると不自然なくらいに静まりかえっていることに、聡も気がついた。聡以上に音に敏感な沙由理が、この変化に気がつかないわけはなかった。 「ねえ、本当は何があったの?」  沙由理が聡にそう尋ねる。聡は沙由理に話すべきかどうかを未だに悩んでいた。知らないで済むことは、知らない方が幸せなのではないか。聡にはそう思えたのだ。これ以上の苦しみを、沙由理に与えたくはなかったのだ。 「ねえ、聡。わたしは目が見えないわ。身体を動かすこともできない。でも、生きてるの。今、この瞬間もわたしは生きてるの。だから、わたしだって何が起こっているのか知りたいのよ。何が起こっているか知ることより、何が起こっているか分からないことの方がよっぽど怖いのよ。わかるでしょう?」  彼女の言うことはもっともだった。 「わかったよ」  聡はしばらく考えてから、沙由理にそう答えた。そして、今の状況をかいつまんで話した。あと36時間で世界は終わること。患者や医師たちは全員、最後の時間を家で過ごすためにこの病院を去っていったこと。今この病院に残されているのは、恐らく数人しかいないこと。 「そんな大切なことを、今まで黙ってたのね」  話を聞き終えた沙由理は、冗談ぽく怒った口調でそう言った。「もし知らないまま死んでたら、聡を恨んで死にきれないところだったわよ」  身体が動かせない分、沙由理は大袈裟に口を広げて舌を出して見せた。 「でも、ありがとう」  聡は何も答えられなかった。沙由理は、一体どんな気持ちでこの事実を受け止めたのだろう。安心したのだろうか?絶望したのだろうか?聡には、よく分からなかった。 「ねえ、そんなに怖がらないで、聡。あと36時間もあるじゃない。わたし達には、まだ36時間も残されている。そう思いましょう」 「???そうだな」  聡は頬をつたる涙を悟られないように、沙由理にそう答えた。 && & ▽ & 「わたしはね、時間と幸せって比例しないと思うの。時間なんて、結局感じ方は人それぞれでしょう?長くても短くても、何をしてもしなくても、結局は記憶として残ったものが全てなのよ。だから、時間の長さが重要なんじゃなく、どれだけ記憶に残ったかが大切なのよ。そう思わない?」  沙由理は言った。聡は、ベッドの脇に座って彼女の手を握りながら、その話を聞いていた。 「わたしね、よく想像をするの。聡と遊園地に遊びに行ったり、買い物したり、映画を見たり???。でも、想像していて虚しくなったことなんてないわ。だって、想像だとしたって楽しいものは楽しいんですもの。それに、想像だろうとわたしの中には記憶として残る。わたしにとっては、そんな想像も大切な想い出???。だから、自分は不幸だなんて思ったことはなかったわよ」  聡もそうやって想像することは良くあった。道を行くカップルを見ながら、そこに自分たちの姿を重ねて見たりすることもあった。また時に、夢の中で沙由理と何気ない日常を過ごすこともあった。確かにそれらは、たとえ単なる想像だったとしても、聡の心の中に大切な記憶として残っていた。 「ねえ、わたしこの間、夢の中で聡とあなたの実家に遊びに行く夢を見たの。その時、わたしったらお茶の葉と海苔を間違えちゃってね。海苔のだし汁のような味のお茶を出しちゃったのよ。ねえ、おかしいでしょう?」  沙由理は本当に楽しそうに話をしていた。 「それはダメだよ。あの海苔はとても高い海苔なんだよ。ちょっと火であぶってね、ちょっとだけ醤油を垂らしてご飯にかけて食べるんだ。とてもおいしいんだよ。今度、送ってもらおう」  聡は笑顔でそう答えた。僕らが今幸せであると言うことは、掛け替えのない事実なんだ。それ以上に何があるというのだろう。聡はそう心から思っていた。  聡と沙由理は、夜が更けるまでずっとそんな会話を続けた。想像はいくらでも膨らんでいき、二人の笑顔が絶えることはなかった。  聡はこんな幸せな時間を過ごせることを、誰に感謝すればよいだろうと考えていた。 & && ▽    話し疲れた沙由理は、いつの間にか寝息を立てて眠ってしまっていた。時計を見ると、針はすでに夜中の1時を指していた。  聡は握りしめていた沙由理の手をそっと置き、幸せそうに寝息を立て眠る彼女の寝顔を見つめた。  今日、世界は終わる。そんな実感は微塵もなかった。しかし、本当に今日世界が終わってしまっても、何も後悔はないと、聡にはそう思えていた。  僕らは幸せだった。最後の時まで、誰よりも幸せだった。そう胸を張って言えるような気がした。  聡はそっと沙由理の頬をなでた。暖かく寝息にあわせてゆっくりと動く。  「ありがとう」と聡は呟いた。その言葉に応えるように、沙由理がふと微笑んだような気がした。  しかし次の瞬間、ベッドの脇にある医療機器の赤い点滅灯が、突然光り始め、静まりかえった病室に警告音が鳴り響いた。聡は慌てて各計測器を見た。どれもが、激しく揺れ動いていた。  ――明日亡くなってもおかしくない状態です。  悠木先生のその言葉が、頭の中に再び木霊した。何もこんなときまで苦しめることはないのに。聡の感謝の心はいつしか憎しみに代わり、誰を憎んだら良いかも分からないこの状況に、ただひたすら怒りを覚えていた。  とにかく何とかしなければいけない。もう、頼れるものは何もないのだ。自分しか沙由理を助けてあげられる人間はいないのだ。  聡は沙由理のベッドを補助部品を取り外し移動できるようにすると、すぐに沙由理の眠るベッドを押して病室を出て、手術室へと向かった。  聡の頭にはあと20時間という数字がよぎっていた。あと20時間、生きられればいい。  手術室に入ると、とりあえずあるだけの道具を無造作にかき集め、手術に取りかかろうと、麻酔と輸血の準備に取りかかった。  沙由理の状態から言って、心不全を起こしているようだった。彼女を救うには、人工心臓を使用するしかないように思えた。  ただの研修医でしかなかった聡が人工心臓の移植手術をしようというのは、無謀なことだと聡にも充分なほど分かっていた。しかし、だからといって諦めるわけにはいかなかった。あと20時間。この時間が、聡と沙由理にとっては何よりも大切なものだったのだ。  守ると約束したのだ。世界が終わるまで、彼女を守ると約束したのだ。  しかし、意に反して聡のメスを握る手は震えていた。  もし、このことで彼女が死んだとしても後悔しないだろうか。彼女は、それを望むのだろうか。あと20時間のために彼女を生かそうとするのは、自分のエゴではないのか。世界の最後を見ずして死ねるなら、それはそれで幸せなのではないだろうか。 「聡くん、医者というのはどんなときも諦めてはいけないんだ。そうだろう?」  そこには悠木が立っていた。彼は来ていたコートを脱ぎ捨て、そのままの格好で手袋だけ付けると聡のメスを受け取った。 「どうして???悠木先生がここに?」 「わたしも職業病だな。何かあった場合は自動的にPHSに連絡が入るようになっていてね。放っておくことなんかできないさ」  悠木はそう言ってすぐに手術に取りかかり始めた。聡は深々と頭を下げると、すぐに反対側に回り込み手術の補佐にまわった。 & & ▽ & 「聡???どうしたの?」  沙由理は目を覚ますと、ベッドの傍らで自分の手を握っている聡の気配を感じ、そう言った。 「なんでもないよ。おはよう、沙由理」  聡は笑顔でそう答えた。  沙由理は身体にいつもはない違和感を感じ、それがいつも自分に取り付けられていた機械がないせいだと分かると、聡の手を強く握って尋ねた。 「装置が取れてるわ」 「もういいんだ。もう必要ないんだよ」  聡がそう答えると、沙由理はそれ以上そのことについて尋ねてこようとはしなかった。 「ねえ、今何時なの?」 「今かい?昼の3時だよ」 「そう、随分長いこと寝ちゃったのね???その間、ずっと手を握っててくれたの?ありがとう」  沙由理はそう言うと、しばらく何も言わずに黙っていた。 「沙由理、家に帰りたいかい?」  徐に聡はそう尋ねてみた。沙由理は考えているのか、何も答えなかった。 「家に帰ろう。僕らの家に」  聡は沙由理の答えを待たずにそう言った。沙由理は驚いた顔で天井を見つめている。 「いいの?」 「ああ。いいさ。僕らの家だもの」  聡は答えた。 「ありがとう」  沙由理は聡に聞こえないほどの小さな声で、そう呟いた。  それからすぐ、聡は病院に残されていた救急車に沙由理を乗せて、自宅のアパートへと向かった。沙由理が病院の外に出るのは、数ヶ月ぶりだっただろう。空は良く晴れていて、気持ちの良いそよ風が擦り抜けていくのを、沙由理は嬉しそうに車の中で感じていた。  アパートの中に入ると、沙由理はゆっくりと深呼吸をした。沙由理は嬉しそうに「聡の匂いがする」と言って笑って見せた。 「胸は傷まないかい?」 「大丈夫」  沙由理は笑顔でそう答えた。 「今夜は俺が夕食を作ってやろう。何が食べたい?」  聡は袖をまくりながら沙由理にそう尋ねた。 「何が食べたいって、スパゲッティ以外に作れるものあるの?」  沙由理が悪戯っぽい口調でそう尋ねる。聡はその言葉に苦笑いしながら、「じゃあ、スパゲッティね」と答える。こんな光景を、何度夢見たか知らなかった。でも、今日だけは特別だ。今日は何でも許される、そんな日のような気がした。  それから聡と沙由理は普通の夫婦と同じように時間を過ごした。確かに沙由理は自分で動くことも、自分でご飯を食べることもできないが、聡にとってはそれでも特別なことだった。  食事が終わると、聡はまたベッドの脇に座り沙由理の手を握ってたわいもない話をした。前に見た夢の話や、共通の友人の話や、お互いの子供時代の話など、話題が絶えることはなかった。 「そうだ」  聡はふと思いつき沙由理に言った。 「学生時代にね、初恋の人がいたんだ。それまでとは違う、ああ、これが恋なんだなって本当に思った初めての人だったんだ。彼女とは毎朝電車が一緒だったんだけどね、結局一回も声を掛けられないまま終わっちゃったよ」 「そうなんだ。わたしもいたわよ。やっぱり毎朝電車が一緒でね。でも話しかける勇気なんてなかったから、何も言えずに終わっちゃったの」  沙由理はそう言うと手を離し、その手を聡の顔にあて、輪郭を確かめるかのようになでながら言った。 「でも、わたしは再会したわ。信じられなかった。こんなことってあるのかしらって。あなたの顔、今でもはっきりと思い出せるわ。本当に幸せだった。本当に。本当に。本当に」  沙由理は笑顔を浮かべ、涙を流してそう言った。 「聡、ごめんね。こんなわたしでごめんね。本当はわたしもあなたを抱きしめたかった。たくさんキスしてあげたかった。たくさん愛し合って、あなたの子供を産んであげたかった。本当に、本当に、こんなわたしでごめんね。でも、わたしはあなたと一緒にいられるだけで幸せだったの。この幸せだけは、どうしても手放すことができなかったの。ごめんね。ごめんね。ごめんね」  聡は溢れ出る涙を我慢しようとは思わなかった。この涙は、僕らの愛の印なのだ。僕らはこの世界に何も残せなかったかも知れない。でも、僕らの生きた意味は誰のものよりも強く、この世界に刻み込まれているはずだ。 「ありがとう。僕も幸せだった。君に会えたこと、君を愛せたこと、すべてが僕の誇りなんだよ。本当にありがとう、沙由理」  聡は、ベッドに横たわる沙由理を抱き上げると、優しくキスをした。何度も何度も、僕らは飽きることなくキスをした。そしてきっと、世界の終わりが来ても、僕らはずっとキスし続ける。  僕らの生きた証は、今ここにあるのだから。 & & たとえこの世界が終わろうとも、僕らの心は生き続ける。 & 永遠に。 & && Episode 1 完 & -````````````````````````````````````````````````````````````````````````````` & Episode 2 あなたに会えて本当に良かった。 &
▽ & 「なあ、幹太。明日のテスト、どうする?」  隣に寝ころぶ亮平がそう尋ねてきた。  幹太は、曖昧な返事を返しながら、目の前に広がる青い空を眺めていた。  学校の屋上には何人かの生徒が思い思いに昼飯を食べていた。幹太たちは、屋上の隅に建つ倉庫らしき建物の上に寝転がっていた。そこは、屋上にいる者たちからも死角になっており、自由気ままな時間を過ごすのにうってつけの場所だった。  幹太にとって、亮平と共にその場所で空を見上げるのは、変わらぬ毎日の日課だった。 「今回赤点取ったらやばいんじゃねえの?俺たち」  亮平はそう言うが、言うほどあまり真剣な口調ではない。実際、そう言った後、亮太は退屈そうに大きなあくびをした。  幹太は、やはり曖昧な返事を返しながら、流れる雲を見つめていた。雲は西から東へと、ゆっくりと流れていた。そのスピードは、動いているのか動いていないのか分からないほどだった。しかし、雲は確実に移動し、少しずつその形を変えていた。  ――のろまなやつだな。  幹太は心の中でそう呟きながら、ゆっくりと流れる雲を眺めていた。  時間というのは本当にのろまなやつだ、と幹太は思う。もっと早く過ぎてくれれば良いのに、そう思うことは数え切れないほどある。こんな退屈な高校生活はさっさと過ぎ去り、早く大人になりたいと思う。 「今夜は徹夜で勉強かなぁ。留年はしたくないもんなぁ」  幹太は呟くようにそう答えた。 「それなら俺も徹夜するかなぁ。夜中に電話するからな、ちゃんと起きて勉強してろよ」 「ああ、わかったよ」  幹太は上の空でそう答えながら、青い空に溶け込むように消えていく雲を見つめていた。 & & ▽ & 「じゃあな、また明日」 「ああ、また明日」  幹太はいつもと同じように、学校の前で亮平と別れた。幹太は自転車に跨り去っていく亮平を見送り、彼の姿が見えなくなるのを確認すると、反対の方向へと歩き始めた。  幹太は一度は家に向かって歩き出したものの、何となくこのまま家に帰るのが憂鬱になり、いつもは通らぬ道を曲がった。  いつもと違う景色が広がる道を、幹太は行く宛もなく歩き出した。そんな些細なことも、幹太にはとても新鮮に思えた。自分の知らない道を歩いていると、いつもの退屈な日常から少しだけでも遠ざかれるような気がした。  家の前を通ると、見慣れない幹太を警戒するように犬が盛んに吠える。今まで知らなかった喫茶店を発見したり、他の高校の制服を着た生徒がちらりと幹太に目を向けたりする。まったく新しい世界に迷い込んだような、奇妙な緊張感と期待感が幹太の心をくすぐる。  どうせなら、このまま見知らぬ世界に迷い込んでしまいたい。幹太はそう思う。  そうして幹太は何となく歩いている内に、自分がどちらの方向に向かって歩いているのかさえ良く分からなくなっていた。しかし、幹太は気にも留めず、目の前に続く道を歩き続けた。  すると、ついに見覚えのある建物の前に出た。幹太はその建物を見上げ、ため息をついた。  ――結局、新しい世界なんて何処にも存在しないんだよな。  幹太は目の前に姿を見せた学校の校舎を見上げ、そう心の中で呟いた。  どうやって辿り着いたのか良く分からないが、どうやら学校の裏側の方に出てきたらしかった。あまり見ることのない裏側からの校舎が、幹太の目の前に広がっていた。そのとき、学校を仕切るフェンスの隅に、小さな門があるのを発見した。この学校に、裏門があることを幹太はその時初めて知った。  幹太がその裏門に目を奪われていると、一人の女子生徒がフェンスの内側を何かから逃げるように走り去っていく姿を目にした。彼女は腐って空いたフェンスの穴から道に飛び出してくると、そのまま走り去り幹太が眺めていた裏門に駆け込んでいった。  幹太は呆気にとられてその光景を見ていると、次に校舎の隅から数人の生徒が走ってきた。どうやら先ほどの女子生徒を追って来たらしく、逃げた女子生徒の姿を必死に探しているようだった。 「また逃げられた!あいつ、逃げ足だけは速いんだから」 「ホントにあいつやらしてくれるのか?」 「ホントホント。もう何人にも犯されてるって話だからさ。でも、よくあんなのとやる気になれるわね」  そう話す生徒達の会話が幹太の耳にも聞こえた。 「もしかして、イジメ現場かよ???。嫌な場所に出くわしちまったな???」  幹太は目をしかめて遠目に彼らを見つめながら、そう呟いた。  生徒達は諦めたのか、すぐに校舎の裏へと消えていった。彼らが姿を消したことを確認すると、幹太は恐る恐る女子生徒が走り込んでいった裏門へと近づいていった。  よく見ると、校舎を仕切るフェンスは裏門の手前で閉じており、裏門はまた別のフェンスの敷地内に入るための扉になっていた。門の中は雑草が生い茂り、どうも衛生的な環境とは思えないほど荒れていた。門がある方から校舎を見上げると、非常階段側の壁が見える。どうやら学校側からは死角になっている敷地らしかった。自分が今まで知らなかったのも、その為だろうと幹太は思った。  幹太は先ほど駆け込んでいった少女の姿を探すように門の外から敷地の中を覗き込んでみた。背の高い雑草が生い茂っている所為で、かなり視界が悪い。奥の方にかなり古ぼけた木造の小屋が見えたが、それ以外は特に目立つものは何もなかった。  幹太は何となく門の中へと足を踏み入れていた。なんとなく立ち去ることができなかったのだ。見慣れない荒れ果てた光景も、妙に幹太の心を惹きつけていた。  幹太は雑草を掻き分けるように小屋の前まで進み、中の様子を探ろうとした。恐らく、あの女子生徒はこの中に逃げ込んだのだろうと思われた。小屋の扉の横に小さな穴を見つけると、幹太はそこから中を覗き込んでみた。  小屋の中は、壁に空いた複数の穴のおかげで光が差し込んでおり、思ったほど暗くなかった。幹太は穴を覗き込み、右から左へと小屋の中を見渡してみた。 「おい、本当かよ???」  幹太の目に入ったのは、今にも首をつろうとしている女子生徒の姿だった。  幹太はしばらくその姿をじっと見つめていた。女子生徒が置いてある箱に登り、天井からつるした紐に首を通す。そのままの姿勢で、女子生徒はじっと何かが来るのを待っているかのように、身動きせず止まっていた。幹太はあまりの緊張感に、呼吸することも忘れじっと見つめていた。  しかし、咽が詰まりつい咳払いをしてしまった。それに反応して、女子生徒の身体がビクッと震えるのが分かった。幹太はその咳払いで我に返ると、意を決したように恐る恐る小屋の扉を開けた。  幹太が小屋にはいると、女子生徒は驚いた顔で幹太を凝視していた。幹太はバツが悪そうに頭をかきむしりながら、女子生徒に視線を向けた。 「邪魔しちゃって悪いな???。でもな、見ちまった以上な???目の前で死なれんのはちょっとな???。まあ、見た俺が悪いんだが???」 「なら出てってよ。今すぐ出ていって、このことは全て忘れて。人に見られたくなんてないから???自分の死んだ姿なんて、誰にも見られたくないから???」  女子生徒は今にも泣きそうな顔でそう答えた。 「いや、そんなこと言ってもな???死ぬって分かってて放っておくのもな???。こう言っちゃあなんだけど、気味悪いだろ?寝付きが悪くなるって言うかさ???化けて出られても困るし???」  幹太は自分の言葉がしどろもどろになっていることを分かりながらも、他に何と言って良いか思い付かなかった。 「化けて出たりなんかしないから、安心して」  女子生徒は幹太から目を逸らすと、弱々しい声でそう言った。 「まあ、待てよ、な?じゃあ、こうしよう。明日、いや、明後日だ。明後日まで待ってくれ。それでも死にたきゃ死ねばいい。あと二日ぐらい死ぬのを伸ばしたって、別にいいだろ?」 「なんで?なんで死なせてくれないの?わたしは死にたいのに」 「いや、あのな???その???なんて言うかな???」  幹太は適当な答えが思い浮かばず、そのまま口を閉ざしてしまった。 「???わかった」  女子生徒はそう言うと、首を紐から取りだし、立っていた箱の上に座り込んだ。幹太はそれを見てほっとし、近くにあった箱に腰を下ろした。 「俺は???」  幹太が言おうとすると、女子生徒は幹太の目をじっと見つめ、それを制した。 「言わないで。あなたの名前も聞きたくないし、わたしの名前も言いたくない。そんなことしても、意味なんてないもの」 「???わかったよ。でも一つだけ約束してくれ。今日は大人しく家に帰るんだ。なんなら俺が家まで送ってやるから。な?」  女子生徒は何も答えなかった。その代わり彼女は小さく頷いて見せた。 ▽ &  幹太は結局その女子生徒を自宅近くまで見送ると、自宅前まではいかずにその場で別れた。自宅を知られたくないし、表札で名前を知られるのも嫌だから、と彼女は言った。幹太も、特に文句も言わずその場で彼女と別れた。  幹太は自宅に向かう道を歩きながら、今更ながらに心が重くなっていた。会おうと思わなければ今後会うこともないだろうし、忘れてしまえば良いのだが、そう簡単に忘れられるものでもなかった。  幹太は自宅に着くと食欲もわかず、そのまま自室に引きこもってしまった。退屈な日々が続くのも辛いが、今日のような目に遭うのも辛いものだと、幹太は改めて思った。 「そうか、テスト勉強しなくちゃな???」  幹太は重い身体をベッドから起こすと、仕方なく机の前に座った。しかし、こんな状況で勉強に集中できるはずもなく、ただ時間だけが無駄に過ぎていった。数時間もするとさすがに耐えきれなくなり、幹太は机から離れベッドに横になった。  人はどんなとき死にたいと思うのだろう。幹太は寝転がりながら、あの女子生徒のことを考えていた。恐らく十中八九、イジメが原因なのだろう。特にイジメられそうな雰囲気はない女の子だったが、今は誰だっていつイジメられるか分からない世の中だ。  彼女の気持ちは分からなくもなかった。いや、分かることなどないのかも知れない。でも、生きているのが地獄だとしたら、やはり人は誰だって死にたくなるだろう。この世の中にそこまでして生きる価値がどれほどあるというのか。  自分が死のうと思わないのは、単に死ぬ理由がないからだ。だから、自分は退屈な日々を生きてきただけなのだ。幹太はそう思った。最初から、自分に生きる理由なんて有りはしない。ただ、死ぬ理由がなかっただけなのだ。  なら、彼女のように死ぬ理由ができたとき、やはり自分も死を選ぶかも知れない。幹太はそう思った。そう思うと、彼女が死のうとするのを制したことが、本当に正しかったかどうかも良く分からなくなる。ただ、自分の前では死んで欲しくない。そんな自分勝手な理由で、自分は彼女が自殺しようとするのを邪魔してしまっただけなのだ。  ――だいたい、この世に人の生きる理由なんてないじゃないか。  幹太は天井を見上げ、そんなことを永遠と考えていた。しかし、そのうちうとうとし始めると、いつの間にか眠りに落ちていた。  幹太がようやく目を覚ましたのは、ポケットの中で震える携帯電話に気がついたときだった。そう言えば、亮太が夜中に電話すると言っていたことを思い出し、うとうとしながらもポケットから携帯電話を取り出し通話ボタンを押した。 「幹太。起きてたか?」 「わりぃ、完璧に寝てた。まったく勉強してないよ」  幹太は目を覚まそうとゆっくりと身体を起こしながら、亮太にそう答えた。 「そんな事言ってる場合じゃないぞ。テレビ見てみろよ。大変なことになってるぞ」  亮太が妙に慌てた口調でそう言った。 「テレビ?」  幹太は怪訝に思いながらも、机に置かれた小さな小型テレビの電源を入れた。あまり映りは良くないが、画面にニュースキャスターらしき人物が現れた。画面の右上には、まだ時刻が四時過ぎであることを示していた。 「こんな時間からニュースやってるぞ。日本の朝は早いんだなぁ」  幹太はそんなことを言いながら、映し出された画面を何となく見ていた。ニュースキャスターが真剣な顔で何か言っている。 「で、これがどうしたんだ?」  未だ状況が掴み切れていない幹太は、観念したようにそう亮太に尋ねた。 「簡単に言うとな、明日、世界が終わるんだそうだ」 「は?世界が終わる?」 「まあ、それは言い方の比喩だけどな。つまり、人類滅亡の危機が迫ってるってことだ。明日、地球上の人々はみんな死ぬ???らしい」 「映画の見過ぎだろ、お前」 「本当に映画だったら良いけどな???さっきアメリカの大統領が会見で発表してた。あの大統領が、そんな演技ができるほど芸達者だとは思わないけどな」 「え?じゃあ、本当なのか?」 「本当だろ。テレビでそう言ってるんだから。これが嘘だったらいくら何でもたちが悪いぜ」  亮太のその言葉に、幹太はようやくことの重大さを認識し、しばらくテレビに流れる説明に聞き入っていた。 「明日のテスト???どうなんのかな?」  幹太は何となくそう呟いた。呟きながら、自分はなんて的外れなことを言ってるんだろうと、少し情けなくなった。 「知るかよ、そんなこと。学校なんて、もうどうでもいいだろ?」 「ああ???まあ???そうだな???」  幹太は曖昧な口調でそう答えた。 「お前どうする?今日、学校行くつもりか?」  亮太がそう尋ねてきた。幹太はやはり曖昧な答えしか返せなかった。 「世界の終わりか???突然、そんなこと言われてもなぁ」  幹太はそう呟きながら頭をかきむしっていた。 & & ▽ & 「ちょっと???学校行ってくる」  幹太は今のソファに座り項垂れている母親に目も合わさずそう声を掛けると、玄関へと向かった。 「幹太。こんな日に学校なんて行かなくても???今日は、どこも休校だって、ニュースでも言ってたわよ」  慌てて玄関まで追いかけてきた母は、幹太にそう言ってきた。 「友達にも会っておきたいしさ。すぐに帰ってくるよ」 「本当に、用事が済んだらすぐに帰ってきてね。あと二日しかないんだら。最後は、家族で一緒に過ごそうって、お父さんも言ってたから」 「そう言えば父さんは?」  幹太は顔を上げて母にそう尋ねた。 「わからないけど???すぐ帰ってくるって言って出掛けていったわ」 「そう???本当にすぐ帰ってくるよ。心配しないで」 「ねえ、本当よ。お母さんを一人にしないでね」 「???わかってるよ。じゃあ、行ってくる」  幹太はそう言うと、玄関を出た。母は玄関先まで出てきて、歩いていく幹太の背中をずっと見送っていた。幹太は、母の視線を背中に感じながらも、一度も振り返ることなく学校に向かう路地を曲がった。  幹太はそのまま真っ直ぐ学校に向かった。ときどき人とすれ違うことはあったが、思ったより人気は少なかった。確かにニュースでは外出は控えるようにとの通告が出ていたが、これほど静かだとは想像していなかった。人々は思っているほど混乱していないのかも知れない。それとも、自分と同じように、やはり信じられないだけなのかも知れないと、幹太は思った。  学校は、案の定ひっそりとしていた。確かに何人かの生徒の姿は見えたが、それもごく少数だった。  幹太は迷わず屋上へと向かった。いつもの場所に登ると、幹太は横になり空を眺めた。  相変わらず雲はゆっくりと進んでいた。いつもの変わらぬ穏やかな空が広がっていた。 「明日、俺たち死ぬなんて、信じられないよな」  亮太がそう言いながら隣に寝転がった。幹太はその姿を確認すると、再び空を見上げた。 「お前も来たのか」 「なんとなくな。これも最後になるだろうし」 「そうだな。これで最後になるかも知れないものな」  幹太がそう言うと、二人はしばらく黙ったまま空を見上げていた。 「なあ」  次に口を開いたのは亮太だった。「お前はこれからどうするつもりなんだ?」 「おれか?分からないな。今はずっとこの空を見ていたい気分だな」  幹太はそう答えた。 「俺???そろそろ行くわ。行きたいところがあるから」 「行きたいところ?どこだ?」 「ああ、ちょっとな。香織のところにな」 「香織ちゃんて、中学の時一緒だった、あの香織ちゃんか?」 「ああ、腐れ縁てやつかな。あいつとは、子供の頃から一緒だったからな。実は、生まれたときも一緒なんだ。あいつとは???ずっと一緒だったんだ」  幹太は亮太の顔を見た。亮太は相変わらずじっと空を見つめていた。 「生まれたときも一緒だったし、死ぬときも一緒でもいいかなって。なんとなくな、そう思うと死ぬのもそれほど怖くない気がするんだ」  亮太はそう言った。 「???そうか」  幹太はそう答えると、再び空を見上げた。 「そうだな」  幹太は確認するかのように、もう一度そう答えた。  亮太はその言葉を合図に立ち上がると、幹太の肩をぽんと叩き「またな」と言って立ち去った。  空に浮かぶ雲が、突然滲んで見えた。しかし、何故か勿体ない気がして、頬をつたう涙を拭う気にはなれなかった。 & ▽ &  幹太はしばらくそうして空を見上げていた。昼休みの終わりを告げるチャイムが校舎に鳴り響くのを聞き遂げると、幹太は立ち上がり、屋上を後にした。  幹太は学校の門を出ると、ふと思い付いたように昨日の小屋のある方へと向かって歩き出した。  幹太は、自分が彼女にあと二日待ってくれと言ったことを思い出していた。あと二日。結局、明日には、みんな死ぬのだ。そうなることが分かっていたら、彼女を止めたりしなかったかも知れない。幹太はそう思った。  例の裏門をくぐり、雑草を掻き分けるようにして小屋へと辿り着くと、ゆっくりと扉を開けた。そこには、あの女子生徒が座っていた。まるで、幹太を待っていたかのように、驚いた様子もなく幹太の顔をじっと見つめていた。 「どうして来たの?」  彼女はゆっくりと顔を逸らすと、幹太にそう言った。 「いや、別に。ちょっと気になったから」 「学生服まで着て、こんな日に学校に来たの?」  彼女はそう言うと、ちらっと幹太の顔を見た。幹太は何故か恥ずかしくなり、顔を逸らしてしまった。 「想い出とかもあるだろ。いろいろと」 「感傷に浸りに来たってこと?わたしにはそんな想い出なんてないわ。できれば忘れてしまいたいくらい」 「じゃあ、なんで君はここへ来たんだ?」  幹太は尋ねた。 「他に行く場所がないから。それだけよ」  彼女はそう答えたきり、黙ってしまった。 「もう、自殺はしないのかい?」  恐る恐る幹太はそう尋ねてみた。彼女は顔を上げ、幹太を見つめ返して言った。 「二日待てって言ったのは、あなたじゃない」 「まあ、そうだけど???」 「どっちにしても、明日には死ぬ運命みたいだけどね。あなたも、わたしも。なんか、そう思うと気が抜けちゃったわ。いつ死のうと、結局明日には死ぬんだもの。どうでも良くなっちゃったのよ」  彼女は自棄っぽくそう言った。確かにそのとおりだと幹太は思った。彼女も自分も、明日には死ぬのだ。 「昨日はごめんな。なんとなくさ。悪いことしたかなって」  幹太がそう言うと、彼女は驚いたような顔で幹太を見た。 「あなたって不思議なこと言うのね。普通、自殺しようとしている人を見たら誰だって止めるでしょう?それを謝るなんて、あなたおかしいわよ」 「いや、昨日の夜いろいろと考えてさ。俺たちが生きる意味ってなんだろうって。そう考えたとき、わからなかったんだ。毎日退屈で、それに嫌気がさしてて、でもどうすることもできなくて。ただ、俺は死ぬ理由がないから生きてただけなんだって。そう思うと、なんか悪い気がしてさ。なんで生きるのかもわからないのに、俺は君を生かそうとしたんだ」  幹太はそう言うと、なんだか恥ずかしくなって顔を背けた。 「あなた、本当におかしいわよ」  彼女はそう言って笑った。考えてみれば、彼女が笑ったのはそれが初めてだったかも知れない。 「ねえ、どうして昨日私がここにいるのを知ってたの?」  彼女が幹太にそう尋ねた。 「君が駆け込んでいくのを偶然見たんだよ。変な奴らに追われてるみたいだったしさ、ちょっと気になって???」 「じゃあ、あの人たちが言ってたこと聞いたの?」 「まあ???」 「そう???じゃあ、なんでわたしが自殺しようとしたのかも察しがつくわよね」 「まあ???」  幹太はばつが悪そうにそう答えた。彼女は、そんな幹太の顔をしばらく黙ったまま見つめていた。 「ここはね、あの人たちから逃げてるときに偶然見つけたの。学校からは、死角になっていてこの小屋は見えない。隠れるには、うってつけの場所だったのよ」  彼女は幹太から視線を外すとそう言った。 「わたしにとって、ここは自分の身を守ることができる唯一の場所。わたしの想い出は、すべてこの小屋の中にあるの。この小屋の外にあるものは、もうわたしには必要ない???。わたしにとってはこの小屋の中の世界がすべてなの。わたしはここで生きて、ここで死んでいく」  幹太は彼女のその言葉を聞きながら、小屋の中を眺めていた。隙間から差し込む光の筋に、舞い上がったほこりが揺れる小屋の中を、幹太はゆっくりと見渡した。 「空がない???」  幹太は天井を見上げ、何気なくそう呟いた。 「なに?」 「あ、いや、なんでもない」  怪訝そうにそう尋ねる彼女に幹太は慌ててそう返した。 「わたしはこの小屋で最後を迎えるつもり。今死んだってべつに良いんだけど、どうせ明日には死ぬんだから、そんなに死に急ぐこともないかなとも思うし。それに、この小屋にいる限り、生きるも死ぬもわたしにとっては同じだから」 「じゃあ、ずっとこの小屋に閉じこもっているつもりなのかい?」 「ええ、そのつもりよ。もう、無理に学校に行くこともないし、無理に外に出てご飯を食べたりする必要もないし、家に帰る必要もないし。どうせ明日にはすべて終わるんだから」  彼女は遠くを見つめるような眼差しで、無表情な顔を見せたままそう言った。 「???夜は寒そうだな???ちょっと」 「一晩だけだもの、そんなのたいした問題じゃないわよ」  彼女はそう言うと、うつむいたまま再び黙り込んでしまった。  幹太は、何となくその場を離れる機会を失ってしまって、妙な沈黙の中、息を潜めるように座っていた。 「なあ、俺たちがみんな死んだ後、この世界はどうなるんだろう?」  幹太は彼女になんとなくそう尋ねた。 「そんなの分からないわよ。この世界がどうなろうと、そんなことどうでも良いじゃない」 「うん、まあそうだけど???」  幹太は彼女の答えに言葉と詰まらせて口を閉じた。 「こんな世界、消えちゃえばいいのよ」  天井に空いた穴から射す光が、そう呟く彼女の顔を照らしていた。彼女は、何故か悲しげな眼差しでその光の先を見つめているようだった。 「なあ、ちょっと付き合ってくれないか?」  幹太は立ち上がると、唐突に彼女にそう言った。彼女は驚いたように幹太の顔を見つめていた。 「どうせ明日にはすべて終わるんだ。今更少しぐらい寄り道してもいいだろ?」 「まあ、そうだけどさ???」  彼女は気乗りしなさそうにそう答えた。 「よし、じゃあ行こう」  幹太はそう言うと、彼女の手を取った。彼女は躊躇しながらも幹太に促され立ち上がった。  幹太は彼女を連れ外に出ると、フェンスに空いた穴から学校の敷地内へと入った。彼女は幹太に手を引かれながら、されるがままに彼の後に従った。 「こっち」  幹太は彼女にそう告げると、校舎内に入り込み階段を登った。もう残っている生徒もいないらしく、二人の足音だけが静かな階段に響いていた。  二人はそのまま屋上に出ると、幹太はいつものように例の場所へと登った。 「ここだよ」  幹太はそう言い、空を見上げた。そして、背伸びをするように身体を伸ばすと、ゆっくりとその場に座った。  彼女はそんな幹太の姿を無言で見つめていた。幹太がその場に座り込みあくびをすると、彼女は幹太をまねるように空に視線を向けた。 「空ってさぁ、鈍臭いと思わないか?なんか見ててもちっとも変わらないしさ。あまりにも退屈すぎて呆れてくるだろ」  空を見上げる彼女に、幹太は言った。 「毎日退屈でさ。何をすればいいのかも分からなくてさ。死にたいなんて思ったことはないけど、だからってどうしても生きたいと思ったこともないな。今考えると、ただ漠然と、死ぬのは怖いから生きてるだけだったよなぁ」  そう言うと、幹太はいつものように寝転がった。 「でもさ、こういう鈍臭い空を見てると、なんだか人生ってそういうもんなのかなって思うんだ。雨が降ったり、ときには嵐になることだってあるけどさ、やっぱり晴れてる空が一番だと思わないか?確かに晴れてる空は、見た目は変わってるようには見えなくて退屈だけどさ」 「わたしの人生はずっと雨が降りっぱなしよ」  彼女は言った。 「だから、屋根のある小屋に閉じこもってるのよ。濡れたくないもの」 「でもさ、世界中で雨が降ってるわけじゃないだろ?歩けばさ、きっと晴れてる場所にたどり着けるじゃんか。まあ、そんな天気が変わるほど歩き続けるのは億劫だけどさ???」 「なにそれ。もしかして、わたしを励まそうとしてるの?」  彼女は足元の幹太に視線を移すと、無表情な眼差しでそう尋ねてきた。 「いや、そういう訳じゃないけど???」  幹太はそう言うと身体を起こし、あぐらをかいて座った。 「ここから見る空は、ずっと友達と二人の秘密にしてたけど、なんか勿体ない気がしてさ。今更気がついても遅いのかも知れないけど、この世って思ったほど悪くないと思ったんだ。この世界が終わっても、この空だけは変わらず残って欲しいな」 「あなたって、本当に変わってると思うわよ。明日死ぬかも知れないって言う日に、空の心配なんかして。しかも、こんな死に損ないの見知らぬ女を相手にしてさ」  彼女は皮肉まじりにそう言いながらも、幹太の隣に腰を下ろした。 「なあ???死ぬのって怖くないのか?」  幹太は彼女に恐る恐るそう尋ねた。しかし、彼女は黙ったままその問いに答えようとしなかった。 「俺は正直怖いよ」  幹太はそう言って彼女に苦笑いを浮かべ、再び空を見上げた。 「ねえ、わたしも行きたいところがあるんだけど付き合ってくれる?」  彼女は幹太の問いに答える代わりにそう言ってきた。 「え?まあ、いいけど???」  幹太が答えると、彼女は彼を促すように立ち上がり、梯子を降り始めた。幹太は一度空を見上げ、その風景をもう一度目に焼き付けると、彼女の後を追い梯子を下りた。  彼女は幹太に構わず足早に校舎の中に入っていった。幹太は怪訝に思いながらも、彼女を追って校舎に入った。彼女は階段を下りると、そのまま廊下を奥に向かって歩き出した。そして、突き当たりの教室にたどり着くと、その扉をゆっくりと開けた。  教室の中には、誰もいなかった。彼女は誰もいない教室に足を踏み入れると、そのまま窓側へと歩いていった。 「へえ、君2年生だったのか。じゃあ、後輩だな」  幹太はそう言いながら彼女に続いて教室に入った。 「これ、わたしの机」  彼女は教室後ろの窪んだ空間に押し込まれるように置かれていた机の前に立ち、そう言った。 「なんだこの教室。こんな形の教室があったなんて知らなかったな」  幹太はそう言いながら、彼女の机が置かれたその空間に足を踏み入れた。そこは調度窓のすぐ外にある柱の影になっていて、薄暗くまるで物置のような空間だった。恐らく一日中陽が当たることはないのだろうと思った。 「朝学校に来ると、いつもこの場所に移動させられてるの。もう面倒くさいからいつもこの場所に座ってたわ。そう言っても、もう何ヶ月も授業には出てないんだけどね」  彼女はそう言いながら机に座った。そして、窓の外に視線を向けた。 「あ」  幹太も彼女に倣うように窓の外に目を向けると、そこから見える風景に一瞬驚いてそう声を上げた。目の前には、先ほどまで自分たちがいた屋上のスペースが、柱と柱の間から微妙に見えているのが分かった。 「わたしだって本当は死にたくなんてないわよ。死ぬのが怖くない人間なんていないわよ。でもね、それよりも生きることが辛いことだってあるの。目の前にあるものが、輝いて見えれば見えるほど、辛くなることがあるの」  彼女はそう言って口を閉ざした。  そうして彼女はしばらく黙って外を眺めていた。どれくらいたっただろうか。おそらく30分以上は過ぎていたように幹太には思えた。幹太がどうして良いか分からず、不意に咳払いをすると、彼女の声が再び沈黙を破った。 「私、そろそろ行くわ」  彼女はそう言い、おもむろに立ち上がった。思い残すものは何もないとで言う様子で、振り返りもせず歩き出した。幹太も彼女の後を追って、その場を後にした。  彼女はまっすぐあの小屋へと向かっているようだった。幹太はどうして良いか分からずに、とりあえず彼女について歩いていた。 「ねえ」  学校を出て例の小屋の前まで辿り着くと、彼女は突然振り返って幹太に視線を向けた。 「いや、やっぱりなんでもない???」  彼女はそう言うと、すぐにいつもの無表情な顔に戻り、どうでも良いかのようにそっぽを向いた。 「明日死ぬかも知れないって言うのに、いつまでもこんなところで油売ってる場合じゃないでしょう。帰った方がいいんじゃないの?」  彼女は振り向きもせずぶっきらぼうにそう答えた。 「あ、ああ。そうだな。それじゃ、風邪引くなよ???」  幹太はそう言って薄暗い小屋の中に入っていく彼女を見送った。 「ねえ」  彼女は振り返ると、再びそう言いながら幹太を呼び止めた。 「その???ありがとう」  彼女はうつむいたままそう言った。幹太は驚いたようにうつむく彼女の顔を見つめ返した。 「わたし???恭子。鈴木恭子」 「え?ああ、俺は???」 「いいの???さようなら」  彼女は薄暗い小屋の中でそう言って手を振って見せた。 「あ、ああ。さようなら???」  幹太は扉を閉める彼女にそう答え、手を振った。 & & ▽ & 「ただいま」  幹太が家に帰ると、母が居間で真っ暗なテレビ画面をじっと見つめながら、一人じっとソファに座っていた。幹太が声をかけると、母はようやく今にも泣き出しそうな顔を上げ、「おかえり」と答えた。 「父さんは?」  幹太が尋ねると、母はまた真っ暗なテレビ画面に視線を戻し、じっと見つめていた。 「父さん、もう帰ってこないかも知れないわね???」  母は感情を押し殺した口調で、幹太の問いにそう答えた。 「こんな時でもお腹はすくのよね???ねえ、何か食べる?」  母はそう言うと立ち上がり、キッチンへと入っていった。幹太は何と声をかけて良いか分からず、そのまま母の後ろ姿を見送った。  幹太はそのまま二階へ上がり、自分の部屋に入った。椅子に座ると、体の力を抜いて背もたれにもたれかかり、天井に顔を向けた。目の前には、真っ白な天井だけが映っていた。  鈴木恭子???その名前を幹太は頭の中で何回も復唱していた。なぜか、どこかで聞いたことがあるような気がした。  幹太は不意に何かを思い出したように立ち上がると、押し入れの中に潜り込み、奥から小さな段ボール箱を取り出してきた。幹太は段ボール箱を明けると、その中から数十枚の手紙を取り出した。  幹太はその手紙を広げ、文章の結びに書かれた文字を読んだ。拙い字で「スズキキョウコ」と書かれていた。  それは、もう何年も思い出しもしなかった遠い昔の記憶だった。幹太はその頃、腎臓病を患っていて、今では考えられないほど身体が弱く、入退院を繰り返していた。  その時出会ったのがスズキキョウコだった。彼女は別の病棟に入院している女の子で、どこかで自分のことを聞いて手紙を書いてきたらしかった。入院している子供が少なかったせいか、同世代の自分に興味を持ったのだろうと思っていた。  彼女はほぼ毎日のように手紙を書いてきてくれた。自分もそれに返事をするのが日課のようになっていた。キョウコの手紙はいつも前向きで、何度となく幹太を勇気づけてくれた。そのおかげか、幹太には闘病生活をそれ程苦にした記憶はなかった。  しかし、キョウコと実際に会ったのはほんの数回程度だった。キョウコの病棟は部外者の入り込めないとろこにあったし、手紙をやりとりしたのもほんの数ヶ月の間のことだった。小学校4年生のときに母親から腎移植を受けたのを最期に、幹太が病院に入院することもなかったからだ。  あの鈴木恭子が、あのときのスズキキョウコなのかは確証はなかったが、幹太には確信めいたものがあった。なんとなくだが、そんな気がした。  しばらくすると母の呼ぶ声が聞こえた。幹太は手紙を段ボールに仕舞い押し入れに戻すと、一階に下りた。キッチンに行くと、いつもと同じように三人分の夕食がテーブルの上に並んでいた。 「食べましょう」 「あ、ああ。そうだね」  母の言葉に幹太は頷くと、テーブルに着き箸を持った。  母は無言のままご飯を食べ始めた。幹太もそれに習うように、黙々とご飯を食べ始めた。不味いわけではないのに、なぜかまったく味がしなかった。  二人で黙々とご飯を食べていると、突然玄関が開く音が聞こえた。母はその音に反応するように箸を置いて期待と不安の表情で玄関に続くドアを見つめていた。 「ただいま」  ドアが開くと、いつもと同じように父がそう言いながら入ってきた。  母はその姿に呆気にとられているようだったが、幹太は我に返り「おかえり」と言って返した。 「母さん、遅くなってすまなかったな」  父はそう言ってそのまま母の前に歩み寄った。母は涙をこらえながら首を振って見せた。 「遅くなんかないですよ。いつもより早いじゃないですか。おかえりなさい」  母はそう言って、父の茶碗にご飯を注ぐために席を立った。 「違うんだ、母さん。遅くなったというのは、これのことだ」  父はそう言ってポケットから小さな箱を取り出し、それを母の前に差し出した。 「結婚指輪???余裕ができたら買おうって約束したままずっと買い忘れてたから」  母は驚いた顔で父の顔を見つめた。 「あなた、今までそんなものを探し回ってたんですか????」 「さすがになかなか開いてる宝石屋がなくてね???正直無理かなと思ったよ」  父は恥ずかしそうに頭をかきながらそう答えた。 「あなたは馬鹿ですよ。こんなときに、家族に心配をかけて。本当に、大馬鹿ですよ」  母は、泣きながらそう言い、その場に崩れるようにへたり込んでしまった。  父は母に手を貸して椅子に座らせると、自分もようやく落ち着いたようにテーブルに着いた。 「安心しろ。お前たちは、俺が必ず守る。どんなことをしても、必ず守るぞ」  父は真剣な顔で幹太と母にそう告げた。幹太も呆気にとられて、そんな父の顔をじっと見つめていた。 「生きるんだ。なんとしても生きるんだ」 「そうね」  母はそう言うと、父のご飯を注ぐために席を立った。  三人は久しくぶりに揃って夕飯を食べた。父はいつにもまして饒舌なような気がした。母は笑っているのか泣いているのかよく分からない顔で、しきりに父の言葉に頷いていた。幹太は、そんな二人を見ていると、ふいに感謝の思いが沸き上がってくるのを感じた。 「ありがとう」  幹太は箸を置くと、唐突にそう言った。父と母は一瞬とまどいの表情を見せたが、笑顔でその言葉に応えた。 「なんて言っていいのかわかんないんだけど。父さんにも、母さんにも、本当に感謝してるんだ。今まで育ててくれたとかさ、そんなことじゃなくてさ???うまく言えないんだけどさ」  父は黙って聞いていた。母は涙を流して顔を伏せて泣いていた。 「父さんと母さんには、少しでも生きていて欲しい。少しでも長く生きていて欲しい。そう思う」  幹太はそう言うと、一息ついて再び二人の顔を交互に見つめた。 「でも他にも生きていて欲しいと思う人がいるんだ。父さんが母さんや俺に思うように、俺にも守ってあげたいと思う人がいるんだ。だから???」  幹太はそう言うと立ち上がった。母は驚いたように幹太の顔を見上げていたが、父はその言葉に小さく頷いた。 「安心して行ってきなさい。母さんにはわたしがついてる」  父はそう言うと、隣に座る母に同意を求めるように肩をぽんと叩いた。 「ありがとう、父さん」  幹太はそう言うと、部屋に上着を取りに戻り、布団を担いで再びキッチンに戻った。母は父にすがりつくような格好で泣きながら、幹太を見ていた。 「いいか、幹太。最後まで諦めるな。絶対に生きろ。いいな」  幹太は頷くと深々と二人に頭を下げた。そして、そのまま飛び出すように家を出た。幹太はふと思い出し一度家に戻ると、玄関に立てかけられていた傘を手に取った。 「いってきます」  幹太はいつもと同じようにそう言うと家を出た。家の奥からは母親のすすり泣く声が微かに聞こえていた。 &
▽ &  小屋はひっそりと雑草の合間に隠れるように建っていた。幹太は穴だらけの扉をゆっくりと開けた。  小屋の中は真っ暗な闇に包まれていた。まるで時間が止まっているかのように、凍り付くような空気がその場を包んでいた。  幹太は息を潜めてゆっくりと中に入った。そして、暗闇の中をまさぐるように彼女の姿を探した。しかし、本当は小屋に入った時点で分かっていた。もうそこには、彼女の姿はなかった。  幹太は諦めたように彼女が座っていた箱の上に腰を下ろした。そして、ぼんやりと天井に吊り下げられた紐を見つめていた。  少年時代の幹太を救ったのは恭子だった。本当は、死ぬのが怖くて、病気に負けるのが怖くて、逃げ出したいくらいだった。でも、恭子がどこかで自分を見ていてくれるのだと思うと、なぜか頑張ることが出来たのだ。  だから今度は、自分が恭子を救ってあげなくてはいけない。幹太はそう思った。あの時の約束を果たさなければいけない。  幹太はポケットの中から彼女からの手紙を取り出した。彼女から、最期にもらった手紙だった。  ――もしもだけど、かんたくんがしんじゃうかもしれなくなっても、わたしがそばにいるからね。だから、わたしがしんじゃいそうになったら、わたしのそばにいてね。  本当は一番不安だったのは恭子だったのだ。今になって、それが分かる気がした。この最期の手紙は、彼女が自分に宛てた警告だったのだ。  幹太は立ち上がると小屋を後にした。もう、ここにも何も残されていない。幹太はそう思った。彼女がここにいないと言うことは、彼女はまだ生きていると言うことだ。  幹太は校舎の方へと向かった。おそらくもう誰も訪れることはないのだろう静まりかえった校舎は、物悲しい静けさに包まれていた。  幹太は屋上に上がり、空を見上げた。いつもより多くの星が空に散りばめられているように思えた。  幹太はしばらくそうして空を見上げたまま、その場に立っていた。しかし、冷たい風が首筋をすり抜けるのを感じると、布団を持ったままいつもの場所に上った。  その上に立ち改めて空を見上げると、幹太には少しだけ星々に近づいたように感じられた。 「幹太くん?」  その声に反応して、幹太は視線を足下の方に向けた。そこには、恭子が一人座って幹太を見上げていた。 「遅れてごめん」  幹太は笑顔でそう答えた。  恭子はしばらく幹太の顔を見上げていたが、視線を星空に移し、白い息を吐きながら星空を見上げていた。  幹太は恭子が寒そうな仕草をするのに気がつくと、持っていた布団を彼女の肩に掛けた。恭子は「ありがとう」と小さな声で礼を述べた。 「もう一度、見ておきたかったの。これで最期になるから」  そう告げると、恭子は再び黙ったまま空を見上げていた。幹太も同じように立ったまま空を見上げていた。 「幹太くんは、ここから星空を見るの初めてでしょう?きれいでしょ。わたし、ここから見る星空が好きなの」  恭子は言った。幹太は無言で頷いて見せた。 「風邪ひくよ」  恭子は隣に立つ幹太を見上げると、そう言って布団を開いて見せた。幹太はそれに従うように恭子の隣に腰を下ろし、肩を寄せ合って布団を掛けた。 「ねえ、なんで傘なんか持ってるの?たぶん、雨なんか降らないよ」 「さっき言ってただろ?濡れるのが嫌だから小屋に閉じこもってるって。だから、傘を持ってきた。これがあれば、あの小屋から出れると思ってね」  恭子はそれを聞いてくすっと笑った。 「これ」  幹太はポケットの中から手紙を取りだし、それを彼女の前に差し出した。恭子は一瞬その手紙に目をやったが何も言わず、再び星空に視線を戻した。 「うれしかった。幹太くんが、あの小屋に現れたとき、本当にうれしかった」  恭子は膝を抱えこんだ姿勢で座ったままそう言った。 「ごめん。遅くなって、本当にごめん」  幹太が答えると、恭子は首を振って見せた。 「教室から屋上にいる幹太くんを初めて見たとき、わたしすぐに気がついたわ」 「恭子ちゃんも、病気治ったんだね。良かった」 「恭子で良いわよ」  彼女はそう言って、もう一度幹太の持つ手紙に目を向けた。 「約束、覚えててくれたのね」 「違う、違うんだ」  星空を見つめたまま、今日の言葉を制するように幹太はそう言った。 「君に生きていて欲しいだ。ずっと生きていて欲しい。だから、ここに来たんだ」  幹太はそう言うと照れくさそうに恭子の顔を見た。 「一緒に生きよう。これから、ずっと」  恭子は始め驚いた顔を見せたが、照れたようなそぶりを見せながらそっと身体を寄せて幹太の胸に顔を埋めた。 「思ったんだ。生きるって言うことは、自分の命を守ることじゃない。自分にとって大切な命を守ることが、生きるってことなんだ。そんな単純なことに、何で気がつかなかったんだろう」  幹太はそう言って恥ずかしそうに恭子の顔を見た。 「わたしはずっと、自分の命を守るのに精一杯だったわ。何度も生きていて何の意味があるんだろうって思ったわ。何度も諦めそうになった」 「君が一番辛いときに、俺はそばにいてあげられなかった」 「そんなことないよ。だって、わたしはずっと幹太くんを見てたもの。私が今日まで頑張れたのは、幹太くんのおかげだもの」 「これからは、俺が傘を差してあげるからさ。雨が降っても大丈夫」  幹太は持ってきた傘を広げるとそれを二人の上に差し、悪戯っぽく笑って見せた。 「ねえ、わたし一度だって他の男に身体を許したことはないよ。信じてくれる?」 「うん、知ってるよ」  幹太は笑顔でそう答えた。  二人はどちらからともなく、抱き合いキスをした。何度もお互いの存在を確認しあうかのようにキスをした。  そして二人は、不器用な仕草で身体を寄せ合うと、くすくすと笑いながらじゃれ合った。しだいに身体が火照ってくると、恥ずかしそうに布団の中で絡み合い、いつしか時を忘れ二人は重なり合い求め合った。  幹太は尽きることのない欲望で、恭子を求め続けた。彼女の肌の感触を愛おしく思い、彼女の発する声に幸福を感じていた。 「今日、世界が終わるなんて嘘みたい」  幹太の胸に顔を埋め、恭子は言った。そしてしがみつくように幹太を抱きしめた。幹太も力一杯、彼女の身体を包むように抱きしめた。  恭子は身体を震わせて泣いていた。 「どうしてこういうことになっちゃんだろう???。わたし、何かいけないことしたのかな。やっぱりわたしがいけない子だから、こんなことになるのかな」  恭子は肩をふるわせてそう言った。星の光に、頬を流れる涙が反射して見えた。  幹太は恭子の頬を流れる涙を拭くと、そのまま彼女の手を取り手の中に握りしめた。 「ねえ、わたし死にたくない。生きていたいよ。生きていたいよ。生きていたいよ???」  すがりつく恭子を幹太は優しく愛撫した。 「君は生きる。生きるんだ。死ぬなんてあり得ない。君が死ぬなんて、そんなことがあっていいはずがない」  身体を震わせ声を上げる恭子に、そう呟き続けた。  恭子は泣きながら幹太を抱きしめた。  二人はもう一度、我を忘れ求め合った。 & ▽ &  朝、幹太が目を覚ますと恭子の姿はなかった。その代わりに、手紙が一通置かれていた。  幹太はその手紙を取り上げ、何度も読んだ。何度も読んだが、理解できなかった。そして理解することを諦め、恭子の姿を捜し回った。しかし、どこにも彼女の姿はなかった。まるで幻だったかのように、彼女は幹太の前から忽然と姿を消していた。  身体には、まだ恭子の温もりが残っていた。絶対に彼女は死んだりしない。絶対に自分たちは死んだりしない。いつまでも、いつまでも生き続ける。そう幹太は信じていた。 & & ▽ &  これを幹太くんが読んでいるとしたら、わたしはきっともうこの世にはいないのかな。  わたしはずっと死にたいと思ってきた。こんな世界から、早く逃げだしてしまいたいと思ってた。  イジメはすごく辛かった。毎日が地獄だった。でも、わたしが本当に死にたい理由は他にあった。  わたしは1年前ついに、医者に余命3ヶ月を宣告されたの。ずっと頑張ってきたのに。すごく怖かった。こんな理不尽なことがあるなんて、神様を恨んでも恨みきれなかった。  わたしは、あなたが生きるこの世界からわたし自身が消されてしまうことが何より怖かった。突然奪われてしまうくらいなら、自分から壊してしまおうと思った。誰かに奪われてしまうくらないなら、自分で消してしまいたかったの。   叶わない片思いだと分かっていたけれど、それがわたしの人生の全てだった。結局死にきれずに、わたしは1年も生き延びてきた。あなたのいるこの世界に生きたい一心で、わたしは生きてきた。  これはその報いなのかも知れないって思った。突然、あなたまで、理不尽な死が襲うことになってしまった。わたしには、わたしが死ぬ以上に、その方が耐えられなかった。あなたがこの世界からいなくなるなんて、そんなことがあっては絶対いけないと思ったの。  だから、わたしはこの命を捧げようと思う。今までわがままで生き延びてきた分を、少しでも許してもらえるように。わたしが奪ってしまった命を時間を、あなたに分けてもらえるように。  あなたの命が、いつまでもこの世界で輝いてくれますように。  わたしは、遠くからそれを見守り続けます。 &  さようなら、大好きな幹太くんへ。 & & あなたに会えて本当に良かった。 & だから、さようなら。 & Episode 2 完
記憶を辿る
うごめく砂嵐が
座り直し
冴えた
日付
呟く
殺風景な
整頓
目につく
無機質
憩い
引き払ってし
なさないもの
何気なく
 テレビにアメリカテレビ局のニュース番組の一場面が流れた。そして、お世辞にもハンサムとは言えない男のアップが映し出され、いつもと同じ訥々とした口調で文面を読み始める。何を言っているのかは理解できなかったが、すぐに画面に日本語訳が流れ始める。
小難しい
どうでもいいことに思えた
テロップ
途切れ
発した
騒がしい
所為
病室脇
振り返って
目に付く。
当初
登る
特番
多大
チェルノブイリ
降り注ぐ
瞬く間
誠しやかな肩書き
息を荒げて
実感が湧かない
現実味
慌てふためき
滑稽
同義
遠慮がち
振り向いて
繋ぎ止めている
気力
消え去って
気遣う
痛々しく
程遠い
ただ流されるように毎日を過ごしていた結果
悪戯
運良く
運悪く
虚構
覗かせて
廊下へと出た。
類い希
気まず
それに習い彼の後について彼の部屋へと向かった。
腰掛ける
第一声
口を噤んでしまった。
良心を蔑んでいる
責務を全う
誰もがそう思っている
一緒に生きる時間を授けてくれたこと
悠木は頬をつたる涙を拭おう
ふためく
お昼前
静まり
彼女の言うことはもっともだった。
今の状況をかいつまんで
数人
聡を恨んで死にきれないところだったわよ」
身体が動かせない分、沙由理は大袈裟に口を広げて舌を出して見せた。
頬をつたる涙を悟られない
時間と幸せって比例しないと思うの。
長くても短くても、何をしてもしなくても、結局は記憶として残ったものが全てなのよ。
脇に座って
「わたしね、よく想像をするの。聡と遊園地に遊びに行ったり、買い物したり、映画を見たり???。でも、想像していて虚しくなったことなんてないわ。だって、想像だとしたって楽しいものは楽しいんですもの。それに、想像だろうとわたしの中には記憶として残る。わたしにとっては、そんな想像も大切な想い出???。だから、自分は不幸だなんて思ったことはなかったわよ」
お茶の葉と海苔
ちょっと火であぶってね
垂らして
膨らんで
いつの間にか寝息を立てて眠ってしまっていた
握りしめていた
そっと
そんな実感は微塵もなかった
胸を張って
点滅灯
静まりかえった病室に警告音が鳴り響いた
計測器
木霊
取り外し
あと20時間という数字がよぎっていた
無造作にかき集め
心不全
人工心臓
無謀
意に反して聡のメス
エゴ
世界の最後を見ずして死ねる
それはそれで
脱ぎ捨て
職業病
深々と頭を下げると、すぐに反対側に回り込み
傍ら
気持ちの良いそよ風が
擦り抜け
悪戯っぽい
苦笑い
手を握ってたわいもない話をした
輪郭
溢れ出る
参考看看我这两个课后回复:、
不过开班之前还是要鼓励同学的~只是课件的前几个可以适当降低同学们的期望值~
可以查看更多内容,还可以进行评论。
(伊藤纯也)
(伊藤纯也)
(伊藤纯也)
(伊藤纯也)
(伊藤纯也)
(伊藤纯也)
(伊藤纯也)
(伊藤纯也)
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